【4年11月度 産業懇談会(火曜G)模様】

テーマ: 『 中小企業に採用力を 』

  • 日  時:令和4年11月8日(火) 12時30分~14時30分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 桂の間
  • 参加者:27名
スピーカー:
河野 一平(こうの いっぺい)
株式会社ジーエスコンサルティング
代表取締役
写真:河野 一平氏

自己紹介

 鹿児島市生まれで、父が奄美群島の大島紬を製作する伝統工芸士の家庭で育った。私の人生のビジョンは、日本を背負う次世代のリーダーを育成し、7人の社長を輩出することである。そのために、将来社長になりたいと志を持った人材を探している。
 私のこれまでの歩みは、17歳で愛知県に来て家族経営の会社で働いていたが、名古屋にいた兄がトラックドライバーの人材派遣会社を立ち上げることになり、そこで働くことにした。その後、スーパーの物流センターで請負業務を任せてもらえるようになり、日々の改善が評価されて、物流コンサルとして他の工場も手がけるようになった。しかし、トラックドライバーの人材不足の問題に貢献するため、2016年に40歳でドライバー派遣会社を起業することにした。会社が安定的に成長するかどうかのポイントは「採用」であることを勉強し、当時、注目を浴びていたIndeedを徹底的に研究した。Indeed日本一の代理店と面談し、研究を行うことで業績を伸ばすことができた。
 しかし、予てよりコンサルで世の中に貢献したいとの思いが強く、物流で困っている人の課題を解決するために新たに中小企業求人部というブランドでサービスを開始し、Indeedで培った採用ノウハウを活かし、中小企業の採用支援に力を入れることにした。採用支援は全国の中小企業のお役に立てられると気付き、グロースサポートコンサルティングという企業の成長をサポートする会社を目指して、当社を設立した。新型コロナウイルスの影響で困惑している中小企業が多く、相談料を思い切って0円に変更したところ、全国で顧客を増やすことができた。今は新たに介護業界の支援も行っている。

当社の概要

 当社の経営理念を「お客様の立場で考える」、「お客様の困り事を解決する」、「全ての経験をお客様のために」と掲げている。事業は、中小企業の採用HPや採用コンサルティング、求人広告、採用コンシェルジュなどがある。他社との違いは、顧客の人事部になることである。採用を効率的に行うために、見え方を改善して情報を発信し、データを分析するPDCAを回すことを支援している。創業3年で、求人掲載数は3万求人以上、取引社数は800社以上、Indeedの代理店のシルバーランクで全国1位を獲得することができた。

中小企業に採用力を

 採用活動には正解がなく、人に選ばれる会社になるためには、ブランドや条件、性格(中身)、未来(ビジョン)の4要素が重要である。日本は、社員と会社の繋がりが希薄な「条件」をもとに採用することが多いため、強い繋がりを築くことができる「未来」に共感した人材への採用に切り替える必要がある。会社の未来をプレゼンし、集める採用から集まる採用への転換が求められる。問題点は、WEBによって企業の比較や応募がしやすくなったにも関わらず、採用担当者が自社の求人サイトを確認したり、他社との比較ができていない点である。人口減少に伴い求職者は少なくなるため、中小企業が若者を採用することがますます困難になる。
 若者が就職先を決める際に重視する項目のアンケートによれば、「自分に合った雰囲気の職場環境」、「社員が生き生きと仕事をしている」、「福利厚生の充実」が上位となった。仲間と共に目標を成し遂げることを重要視している。幸福の定義も達成感から、意味報酬という仕事の意味を問うことに変化した。従って、若者と繋がる接点は、ビジョンの接点を探すことである。会社と社員のビジョンを面談で重ね、ビジョンで繋がる関係性を持ち、そこから課題を設定して成長を促していくことが求められる。
 ビジョンにはDo ing型(こうなりたい)とBe ing型(こうありたい)の2つのパターンがあり、社員によって使い分ける必要がある。働く目的を面接で聞くことを推奨している。何のために働くのか、お金、時間、内容(成長・体の負荷)、休み、人間関係、通勤など、どの項目に該当するか確認する必要がある。向き合っていくと学生は、自身の成長のために働くという考えを持っている。本人の目標と会社のビジョンが重なっている人材の採用を行い、ビジョンを叶えられる会社だということを認識してもらう必要がある。

採用の広告

 採用の広告とは、自社の良さを過不足なく発信する行為である。つまり、会社の良さを棚卸して、強烈なPRポイントを発信する。加えて、動画を用いて社員が自社の良い点や目指す未来を発信する求人を行うと良いだろう。自社の良さを新たに生み出すことや既存の良さを改善することに、コストをかけ注力していく必要がある。「人集め」をするには、立地や求人媒体など様々なコンテンツがあるが、自身で意思決定をすることが苦手になっているため、家族、友人、人材会社の紹介で就職先を決めることが多くなってきた。また、「認知」してもらうために、SNSやYouTubeなどが広がってきている。
 求人業界の今後の動向は、旅行や飲食業界に追随すると言われている。これらの業界は口コミサイトがあり、求人も口コミなど他人評価で決める日が来るだろう。従って、応募者も口コミを書く可能性があるため顧客として考えなければならない。求人は、認知してもらい人材を集める時代から、口コミから集まる時代になる。今年の10月より採用から定着まで企業を診断する調査ツール(サーベイ)をスタートさせ、社員が定着・活躍できる職場作りを支援している。
 私のビジョンは、相談しやすく寄り添い型の採用支援の会社として、日本一を目指したい。そして、企業に入り込む立場を活かして、一緒に中小企業の労働環境を改善し、日本を労働者幸福度が高い国にする。今後は、このビジョンに繋がる事業展開をしていきたい。

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【4年11月度 産業懇談会(水曜第2G)模様】

テーマ: 『 関連会社の甘えを払拭、自立ある会社づくりを目指して 』

  • 日  時:令和4年11月9日(水) 12時30分~14時30分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 桂の間
  • 参加者:24名
スピーカー:
川西 邦仁(かわにし くにひと)
大同マシナリー株式会社
取締役社長
写真:川西 邦仁氏

自己紹介

 大学を卒業後、大同特殊鋼株式会社に入社し、知多工場分塊圧延に配属された。その後、2012年に技術部長、2015年に執行役員知多工場長を歴任し、2019年当社の社長を拝命した。この間、米国への留学や現地企業との技術提携の仕事を経験してきた。

当社の紹介

 製鉄業は、鉄を溶かす・固める・鍛錬する、圧延する工程の4つに大きく分かれる。大同グループの特徴は、川上から川下の工程まで、製造設備や装置などを自前で製造するエンジニアリング力を保持していることである。その他に、インフラやエネルギー、自動車関係の産業機械を製造している。
 主な事業は、機械設備、ロール製品、保守・保全のメンテナンス、機械加工の4つに分かれ、重厚長大な製品を得意としている。大同特殊鋼グループは海外を含めて全部で70社あり、その中でエンジニアリングは当社含め3社ある。当社以外は、熱処理炉や環境設備を扱っており、当社のみが工作機械を含めてエンジニアリングの役割を担っている。大同特殊鋼グループ全体の設備に関して構想や設計し、自前で部品の加工、組み立て、保全を行う。
 機械設備の製品は、結束機、丸棒矯正機などがあり、鉄鋼の整備検査ラインに使用されている。また、鉄板を円筒状や円錐状に曲げるベンディングロール、パワータイトというシェールオイルやガスの掘削用のシームレスパイプのフランジにも使用されている。その他に、NCガントリー形ドリル、パーツフォーマーなどがある。
 ロール製品では、電気自動車の電磁鋼板に使用される。精度の高い特殊な素材を仕入れ、当社が加工し販売する。電気自動車の増産によって、今後成長する分野ではないかと期待しており、投資を行って顧客の要望に応えていきたい。
 当社の売上の約6割はメンテナンスの事業で、重厚長大な設備の保守保全が得意である。顧客の生産現場に直接専用加工機を運び、設備の解体・移動にかかる工期の短縮、およびコストの削減を実現している。機械加工では、顧客のニーズに合わせた高精度の丸棒や角棒の加工を行う。
 新たな試みとして、ティーチングレスロボットシステムという作業者がロボットに動作を教えるティーチング時間を短縮させることを目的に、機械のワークをスキャンした3Dデータを使用し、ロボットプログラムを短時間で自動生成するシステムを開発した。顧客の小ロット多品種の要望に応えることができる。ビジネスとして成立するか、品質に問題ないか検討している。
 当社は1937年に、大同特殊鋼の星崎工場の圧延工場の建設に伴い、機械部門がスピンオフして大同機械製作所としてスタートした。その後は、海外の会社と技術提携を進めながら新しい技術や製品を生み出していった。2007年に転機が訪れ、関連会社である大同テクニカのメンテナンス部門と当社の機械・電気部門を集約し、アフターマーケットを含む機械の保全事業を手がけることで、経営が安定した。受注の内訳は、大同特殊鋼への売上が約6割と大きく、外販を伸ばしていくことと、スタッフ系の生産性を上げることが課題である。

課題の抽出及び対策について

 いくつか事例を挙げて紹介していきたい。まず、2007年の合併後、総合エンジニアリング会社としてシナジー効果をより高めるために、従来の縦割り組織や人材交流の停滞、保全部門への依存を打破する必要があった。私が着任した当時、本社、エンジニアリング事業部、メンテナンス事業部、東海事業部の4事業部があり、時間をかけながら組織体系を改善してきた。例えば、本社内に社員自ら企画をさせるために経営企画を新設した。また、営業本部と生産本部の2本部制に変更し、機械・メンテナンス・設計部門を営業本部に組み込んだ。加えて、新規でプラント営業を新設し、単体設備のみの販売ではなく、顧客に納入した設備の前後を含めてライン設計の提案ができるようにした。この他、工場毎の収益管理、加工部の自立、市場開拓プロジェクトという大手メーカーが設備メンテナンスをアウトソーシングする需要を取り込むための市場開拓、東南アジアを中心とした海外関連会社への支援に注力してきた。
 また、当社を支えているベース活動として、安全活動がある。安全に対して全社がバラバラで活動をしていたため、全社安全チームを設け、全社の安全活動を横断的に管理する部署を整備した。特徴は、この部署のリーダーは、安全対策費として年間1000万円まで即決で決裁できるように権限を委譲している。
 社員のエンゲージメントの向上を目的に、サスティナブル推進チームを発足させ、社外活動や趣味へ補助金の支給、D&Iへの対応、福利厚生の充実を推進している。メンタルヘルスは専門の会社と契約し、負荷の高い職場全員の面談を実施している。また、専属の保健師との契約、女性が働きやすい環境を整えるために、女性専用の女性厚生棟を建設した。
 人事制度の変更は、社員の役割を定義化し、人事考課の公平性の担保やスペシャリストを養成するために処遇の改善、ヘッドハンティング制度を新設した。今後、良い人材を確保するために、管理職昇格時にジョブ型契約への移行も検討していく必要がある。
 この他に、SDGsやCNへの対応事業として、既存製品や設備を活用し、洋上風力発電基礎構造物やCO2を地中に埋めるCCUS関連の設備、EV・インバーター・電池など新たな市場に挑戦していきたい。

今後の展開

 大同グループ全体のエンジニアリング会社として、成長分野への投資に資する設備開発能力を有し、貢献をしていくことである。自立ある会社を目指して、外販比率を上昇させ、外部マーケット環境の変化に柔軟に対応できる足腰の強い会社にしていきたい。

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【産業懇談会「代表幹事講話」ならびに「新年合同懇親会」のご案内】

 毎年恒例の産業懇談会4グループ新年合同懇親会を、下記の通り開催いたします。
 今年度は、尾堂筆頭代表幹事からご講話をいただきます。産業懇談会のメンバーの皆様に親睦を深めていただきたく、あわせて新年合同懇親会を開催いたします。

 現在、定員に達しております。
 キャンセル待ちをご希望の方は、恐れ入りますが、事務局までご連絡いただきますようよろしくお願いいたします。

 なお、今回もコロナ感染拡大回避の観点から、産業懇談会の会員に限定させていただきます。
 何卒ご理解、ご協力のほどお願い申し上げます。

日時
令和5年1月24日(火) 17:30~20:00
17:35~18:35 尾堂筆頭代表幹事ご講話
18:45~20:00 新年合同懇親会
場所
名古屋観光ホテル 3階 那古(東中)の間
講師
尾堂 真一 筆頭代表幹事(日本特殊陶業株式会社 取締役会長)
演題
『持続可能な社会を目指して~変革の時代を迎えて~』
参加対象
代表幹事及び産業懇談会会員ご本人
定員
産業懇談会会員 103名(先着順で受付致します。)
(本会方針および会場の収容人数から定員を設けさせていただきます。)
懇親会費
10,000円(飲食代)
(当日、講演会場受付で頂戴いたします。講話のみご出席の場合は会費不要です。
講演のみの方は、会員専用ページの「事務局への連絡・お問い合わせ」欄にご記入をお願いいたします)
その他
  • 食事の手配など準備の都合上、ご出席の場合は会員専用ページより1月13日(金)までに必ずご登録をお願い致します。(代理出席はできませんのでご留意ください)
  • お申込後のキャンセルは、1月19日(木)までにお願いいたします。それ以降は、会費を申し受けますので、予めご了承ください。
本件連絡先
中部経済同友会事務局 担当:鶴田・菱川 Tel:052-221-8901

本会会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

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【2月度産業懇談会のご案内】

 2月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
 定員は引き続き、先着30名を目安に、会場収容人数の50%となるよう運営します。
 何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

2月14日(火)
12:30~14:30

『創業を通じて学んだこと。』(仮題)
株式会社SEALS
取締役社長 上尾 元雄 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

2月15日(水)
12:30~14:30

『PCMH(プロセス・コンサルテーション・メンタルヘルス・ケア)巡回の専門的な取り組み
~個から全体が活きる~』
一般財団法人愛知総合HEARセンター
理事長 小瀬木 尚美 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第2グループ

大倉偉作
香川裕子
高見祐次

2月8日(水)
12:30~14:30

『シーキューブの「すごい会社」創り
~仕組み作りから実践まで その全貌~』
シーキューブ株式会社
相談役 橋本 渉 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

木曜グループ

河村嘉男
中林直子
吉田憲三

2月2日(木)
12:30~14:30

『人口減少社会に向けて医療機関が貢献できること
~大同病院の場合~』
社会医療法人 宏潤会 大同病院
理事長 宇野 雄祐 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

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【コラム】

コラム1 【さっかの散歩道】 No.54

長瀬電気工業株式会社
代表取締役 屬 ゆみ子

『 未来への扉 』

 この年の瀬は何かと話題に事欠かず、サッカーワールドカップのことも、畑のことも、第九のことも、久しぶりのシュバリエクリスマス会のことも…。書き始めると、とんでもない文字数になりそうなので、ここは少しばかり浮世離れしたお話から。
 12月14日深夜、ふたご座流星群が大挙してやってくるとの前触れだったので、楽しみにしていたのだが、名古屋はあいにくの曇り。寒いし早々に諦めて、28日から降り注ぐしぶんぎ流星群を年内最後の天体ショーとすることにした。

イラスト:地球

 都会では見られないが、標高の高い海外のスキー場では、星の瞬きの中に高速で周回する人工衛星を肉眼でも見つけられる。見慣れない頃は流れ星と間違ったりもしたが、一向に落ちてこないし、消えないしで、人工物であることを知った。現在地球を周回する人工物は約4400個もあるのだそうだ。それぞれに役割を持ち、気象、GPS、安全保障等々、お陰で私たちの生活は一気に近未来化した。そして、周回軌道を離れ、彼方宇宙を探査し続けている船もある。日本の『はやぶさ2』も未だ長い旅の途中にある。
 そんな宇宙も含め、未知の世界を探求する「プロジェクトX」を放送している番組、NHKBS2の『コズミックフロント』をご存じだろうか。もともと天体好きだったのもあるのだが、最近の身の回りの小さな出来事で右往左往の日々が続いている中、宇宙に目を向けると、広がりゆく未知の世界の中に、新たな生命起源の謎やそもそも物質の成り立ち、宇宙の始まりなど、物理学、天文学、地質学、生命科学、気象、生態など、垣根を超えた発見やチャレンジが、わかりやすく構成され、見るたびにワクワクする内容に満たされた一時間が繰り広げられる。
 「所詮人間は、宇宙の蟻んこ、いや、ミジンコ」と、目の前で日々起こる『ささくれ』のような出来事を、一歩下がって考えることができる、トランキライザー(精神安定剤)というか、『禅』のような効果のある番組で、中でも衝撃的だったのは9月22日放送の「ホログラフィック原理」。宇宙のブラックホールの原理を紐解くにつれ、アインシュタインの相対性理論では説明のつかない現象や解のない問題が発生し、その後量子論によるアプローチによって導かれた原理だ。超理系の方はぜひ一度解読し、NHKよりもさらにわかりやすく解説を頂きたいところだが、結論からいうと、「この宇宙は幻想にすぎない」という元も子もない話に帰結する。いま私たちがいる世界は、ブラックホールのような彼方で圧縮されている一部分が、量子の広がりゆくエントロピーの果て、2次元的に投射された世界なのだ~平たく言うとプロジェクターで投射された世界に、私たちは生きているということらしい。―全くイメージが出来ないが、その原理の正当性が解き明かされるにつれ、かのホーキング博士も負けを認めたというので、きっとこれから宇宙は量子論がメインになっていくんだろうなあなんて衝撃を受けたが、実はそんな小難しい理論よりも私としては、現実の探査計画に興味があったりする。打ち上げから45年たってなおグランドツアー(木星、土星、天王星、海王星をめぐる)を継続しているボイジャー2号、はたまた秘密結社の名のもとに、ジェイムズ・ウエッブ望遠鏡を打ち上げたチームがあったり、そして先日成功したアルテミス計画の走りとなる月面探査機の打ち上げ…これは日本企業も参画してたっけ。一連のプロジェクトはどこをとっても人間臭く、2次元の妄想世界も捨てたもんじゃないと胸躍る。そんな夢見る大人たちの力によって、無限に広がる宇宙は、これから様々な形にデザインされてゆくのだろう。

写真:シャルドネの苗
白ワインの雄 シャルドネの苗

 そんな中で私自身がお世話になりそうな農業の世界にも沢山のイノベーションが起こっている。すでに現在GPSを使った農業耕作機械(刈る時期もすべて空からコントロール)はあるし、月で実験する全天候型農業などは、ゆくゆくは遠隔操作でブドウの収穫からワインの瓶詰まで可能にしてしまうかもしれない~などと考えながら、山形の農園に刈り取った葡萄の苗を見に行く。これから冬眠を迎える苗たちは、選別され、冷蔵され、来春私の所にもやってくる。この農園の接ぎ師さんは、果樹全般を手掛けてらっしゃるのだが、ことワイン用ブドウに関しては、国内の名だたるワイナリーの苗を手掛けている名手。北大の先生に「苗は入りにくいから早めの調達を」と言われ恐る恐るのお願いだったのだが、現地でご本人に会い、またうちの畑の環境などもお話しすると、
「心配いらん、いくらでもチャレンジすればいい。失敗したらまたあなたの畑に合うように接ぎ木するから(山形弁)」との暖かいお言葉、私にとっての未来の扉が、また一つ空いたような気分になった。

写真:空1
天使のはしご、見えるかなぁ
写真:空2
明け行く中富良野、左奥に十勝岳

ドローンで撮影した、田圃整備終了の写真を見ながら、5月になればここに小さな緑の畝ができるのかとワクワクしながら、つい先日、現認のため現地に飛んだ。旭川界隈はすでに雪に覆われ、峠を慣れないレンタカーで超えるのも大変なので、一年ぶりにワンマン各駅停車に乗る。広大な雪景色の中に、雲間から幾筋も差し込む「天使のはしご」。翌日、前富良野岳に輝く朝焼け。ここもまた宇宙の端くれ、妄想の中の一瞬だとしても開き始めた扉はちゃんと開けて、また次の扉に向かって進んでいく勇気をもらった気がした。春が待ち遠しい。

 もちろんW杯、フランスチームの健闘にも元気をもらったので、この勢いで今年はBORDEAUXでカウントダウンをしてまいります。

 皆様も、良いお年をお迎えくださいませ。

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コラム2 【師、曰く】 No.19

妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)

ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメント、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を今回も一筆。

『 自己限定 』

 先日の令和4年度中部経済同友会12月度会員懇談会の講演に、心が躍った。『No attack No chance』その演題通りのレーシングドライバー佐藤琢磨さんの生き様に、感銘を受けた。10歳の時、父親に連れられ初めて観たF1に感動し、心奪われ、学生時代の自転車競技を経て、鈴鹿サーキットレーシングスクールに入り、プロのレーサーとしてF1、インディカー・シリーズのレースで数々の栄冠を手にしている。しかも、その全てが、逆境の連続を乗り越えた、奇跡とも思える結果だった。普通の人なら、妥協し、諦めてしまうことばかり。だが、彼は諦めることなく、No attack No chanceの言葉通り、知恵と勇気で挑み、七転び八起きで、前進してきた。なぜ、彼にはそれが出来たのか?なぜ、私たちはそれが奇跡に思えてしまうのか?

 逆境を乗り越え、前に進めるか否かの道を分けるのは、何か。それが、「自己限定」だ。この言葉は、田坂講義で耳タコの一つ。あらゆる才能の開花のために必要なことは、まず真っ先に、自己限定を取り去ること。師、曰く「才能が開花しないのは、「自分は〇〇だから」という自己限定を無意識にしてしまい、才能開化の道を無残なほど委縮させてしまっているからだ。」確かに、その通りだ。今までどれだけ自己限定の言い訳をしてきたことか。しかし、この世の中には、何の努力もせず、自己限定しない人が居るという。何の努力もせずに?そんな人が居るわけはないだろう、初めて聞いたときは、そう思った。

 佐藤琢磨さんは、自己限定しなかった。それはきっと、無邪気なほどレーサーに憧れていたから。素直にその心に従っていたから。彼が特別なのか?いや、違う。私達は皆、かつて自己限定しなかった。師、曰く「無邪気な子供は、自己限定しない。」そう、私達だって、無邪気な子供の頃は。好きなもの憧れるものに、絶対になれると信じていた。宇宙飛行士に、野球選手に、パイロットに、成る。無邪気な子供は、素直に、成りたいものに成れると信じている。無邪気さ素直さを、持ち続けた彼は、プロのレーサーとなり数々の栄冠を掴んだ。苦労したり挫折する中で、世間の常識や苦手意識といった邪気が忍び込み、私達の多くは、いつの間にか無邪気さを失い、成れるものの限界を作ってしまった。素直に好きなもの憧れるものに成りたいと思い、無邪気にそれに成れると信じること、「自己限定」を外すことから、すべてが始まるのだ。そして、夢に向かって幾度も逆境に直面した時、「No attack No chance」の言葉もまた、自分を支えてくれるだろう。

 自己限定を外す為の技法〝師、曰く〟は別の機会に委ねるとして、私の“Mind of 2023”、決めました。「無邪気に素直に、自己限定せず、No attack No chance!!」修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

写真:熱田神宮の建物
(熱田神宮)

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コラム3 【「ほん」のひとこと】 No.170

株式会社 正文館書店 取締役会長
谷口正明

『 徳川家康 』
松本清張著・角川文庫

 10月に『文豪ナビ 松本清張』をご紹介しましたが、その清張が家康を書いていました。昭和39年1月に出た文庫の新装版です。解説を担当した歴史学者の小和田哲男氏によると、家康の伝記は、江戸時代に幕府が編纂した『徳川実記』や中村孝也氏の『徳川家康公伝』などが通説の基になっているが大部なので、小中学生向けに清張がまとめたものが本書とのこと。子供向けとは言え「大人が読んでも勉強になる。『250ページで家康のすべてがわかる本』といってもよいのではないかと考えている」と述べています。
 解説では、清張執筆後の研究成果も紹介されています。9月にこの欄で取り上げた『論争 関ケ原合戦』とも異なる見解がいくつかありますが、一気に読める分かりやすい本でした。

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